当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その20
商品を海外に売り込むとき相手の顔も見ず、信用状況も調査しないでFax、メール、手紙のやり取りで商談・成約し、物を送るケースがある。それではリスクが高いので支払条件は、商品を送る前に代金を受け取るか、或いは輸入者が発行後取り消し出来ない一流銀行発行のL/C(信用状)を受け取ってから商品を送ることが大原則である。しかし売上欲しさと慣れから、原則を離脱した取引を行なう事もある。
弊社では従来から中古機械を輸出していた。ある時バングラデシュから中古機械を輸入したいとのメールが届いた。内容を見ると供給可能な商品メニューなので早速見積りを送ると次の日には返事が届き相手の希望購入価格が書いてある。それは微々たる差額で希望購入価格を受入たProforma Invoice(商品名、数量、単価、船積予定日、L/C100%の支払方法等を記載)を成約の期待もせず送付した。それは過去にバングラデシュとは成約までは到らなかった経験があり、輸出時に要求される書類や支払条件の厳しさなどは承知していたからである。所が先方から届いた支払条件は、半額前送金そして残額L/Cとの提案で驚き喜んで受け入れた。そして1回目の船積を終えた時点で前送金とL/C買い取り金額の合計は商品代金を上回っていた。差額分を送金するからとのメールを打つと次回用に預かってくれとの事であった。
それから2ヵ月後に再び注文が届いた。注文内容は1回目とは若干異なるが供給することに問題は無いのでProforma Invoiceを前回の支払条件で送ると1/3相当額のL/Cが届いた。通常L/Cには色々な条件が書いてある。船積期限、L/Cの有効期限、銀行での買い取り(現金化)時に提出すべき書類そしてその書類上に記載すべき事柄など。銀行にL/Cの買取(現金化)を依頼する時は、それらが指示通り揃い書類の記載内容に一字一句間違いがないとき初めて現金化が可能である。もし銀行に提出した書類にL/Cの内容と違う個所があれば輸入業者(L/C発行人)はその支払いを拒否する事が出来る。弊社で受け取ったL/Cを見ると船積期限が迫っているので差額の送金は届かないがすぐ送るとの事で船積を行なった。その後も残額の請求をするが返事がない。暫くして社長は入院中の為送金は待って欲しいとの事。数か月待つが届かないので大使館に問い合わせをすると所在不明との回答が返って来た。
相手が本当に病気になり仕事を続ける事が出来ず引越しをしたのか、私が相手の術に嵌り騙されたのか真相は不明である。バングラデシュに集金に行く方法も有るが可能性が低く時間と経費の無駄と諦めた。慣れによる原則を忘れた自らの判断の甘さ、相互信頼が及ばない貿易の厳しさを再認識させられた出来事であった。
(貿易ニュース鹿児島2004.5月号掲載)