当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その15
貿易には様々なリスクが伴うが、相手国の事情で損害を受けたりビジネスチャンスを失うこともある。それは1企業の管理能力を超えおり、この種のリスクの予測はかなり難しいので、1カ国に取引を集中しないことが肝要である。そのような考え方から最近の中国一極集中への警笛として「中国プラスワン」という言葉が新聞や書物で取り上げられる様になった。それは昨年の中国におけるSARSの発生による混乱、中国元の安さ(20年前と比較すると1/8に切り下げられている)に対する世界各国の切り上げ圧力による中国元の切り上げ懸念のリスクヘッジとして、中国に取って代わる取引相手国を持つべき、との考え方である。
輸入相手国として中国の代わりを1カ国だけで補うことは、人口・面積・資源・人件費などを考えると困難と思われる。そこで分野別・商品群ごとに、品質・価格・ビジネスサービス面で中国と同等、或いは勝る国を探すことによりリスクを回避する、との考え方が賢明であり現実的である。以下に私の経験から東南アジア主要3ヶ国がどの分野で「プラスワン」に成り得るかを述べてみたい。
1.ベトナムの優位性は人的資源とメコンデルタの肥沃な土地と自然である。
勤勉で誇り高きベトナム人の人件費は中国より約30%安い。中国と同じ社会主義の国とは言え南ベトナムが社会主義経済に組み入れられたのは27年前の事で、市場経済を理解する素地があり、商習慣の違いによるトラブルも少ない。具体的には、軽工業品、農水産品が有望で、他の商材でも中国との違いは、少量の注文にも応じてくれる事である。
2.インドネシアは歴史的発展段階から見ると、本来ならば現在中国と肩を並べているか、中国の先を行ってしかるべきであった。しかしながら政治の不安定、宗教や貧富の差から来る社会不安・混乱でASEANの巨像は留まったままである。それでも豊富な資源を活用した木製品、水産品、一部の農産物・鉱物資源は十分に競争力を持っている。また現地通貨ルピア安が魅力を発揮する瞬間が有る。
3.タイは殆ど全ての分野で中国製品に取って代われるので、保険を掛ける先としては最適国であるが、問題は価格が少し高い事である。それでも農水産加工品、工業製品、装飾品、木製品では一日の長を持っている。また国際商習慣や日本市場に精通しているので取引の中でのクレームが少ない。
先に述べたようにカントリーリスクを予測することは難しいが、常日頃より世界の動きに注意を払う事により、リスクを少しでも回避することは可能と考える。リスクの無いところにリターンは無い。
(貿易ニュース鹿児島2003.12月号掲載)