当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その14
私は地元企業より、海外進出(合弁・単独)についてアドバイスを求められたり、外国企業の買収(M&A)の仲介を依頼される事がある。そこで今回はそれらの事例を紹介します。
ある食品メーカーの幹部4人が中国に工場を建設したいのでアドバイスをして欲しいと事務所に見えた。既に中国とは取引が有り、取引先の工場で技術指導や検品の為に2-3ヶ月の滞在経験を持つ皆さんより今後の計画についての説明を受けた。私は、「この4人の中でどなたが責任者として赴任される予定ですか」と質問した。すると、「工場の予定地は田舎で、そこの生活環境がどの様なものかを知っているので私達は行きません」、「じゃ誰が行かれるのですか」、「それは決まっていません」。私はその答えを聞いて「中国に進出する前に人の養成が先では。現地を知るあなた方経営幹部が行かれるのであれば細かい相談に乗りますが」と。その後このメーカーは自前の工場建設計画を凍結し製品輸入のみを従来通り行なっている。
ある製造業の社長より、海外に製造現場を持ちたいが現地政府の許可や環境問題を考えると、ゼロからの立ち上げは大変なので現地企業を買収して欲しいとの要請があった。そこで事前調査後、社長と一緒に東南アジアの企業数社を訪問した。その中に社長のメガネにかなった工場を、数ヶ月の交渉を経て希望通りの条件で企業買収終え、社内での社長からの発表となった。その話を聞く社員の目は輝き、社長の顔は自信に溢れ眩しく見えた。その買収企業を立ち上げ、運営するためには技術者を含む最低3人が海外赴任しなければならない。人選を始めると意中の複数の人が、家庭の事情で日本を離れるわけに行かない旨の話をする。結局選考の結果は、消去法で家庭的に問題が無い技術者と単に語学力のある人が派遣された。その後の結果については読者の推察におまかせします。
海外進出は日本における営業所立ち上げや工場建設とは明らかに違う。生活環境、言葉、法律、習慣、価値観等が異なる中での事業は、距離的な問題もあり日々起こる事柄に対しての適切な判断が可能な経営感覚(能力)を備えた人材の派遣が望まれます。ややもすると語学を最も重要なファクターと考えがちだが私はそう思わない。それは日本における起業(創業)以上の覚悟と準備が必要で有ると考える。
(貿易ニュース鹿児島2003.11月号掲載)