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その12

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その12

弓場秋信氏国内での商談でも食事を伴うことがあるが、海外での商談は国内以上に食事を一緒にする機会が多い。それは相手がバイヤーで無く売り込みでも海外からの訪問客として持て成す。食事だけなら思考能力も落ちることなく会食中もビジネスの話が進められるが、酒が入るとそうも行かない。シンガポールを輸出商談で訪問した時の事である。
当時マレイシアに中古輸送機器の輸出を行なっていた。その輸入者がシンガポールの友人も欲しがっているのでコンタクトしてはと紹介してくれた。信用の置ける人であろうとは思ったが、一回も会ったことの無い人と取引をする訳だから当然のことながら代金決済条件はL/C(信用状)或いは注文と同時に前送金とした。相手はL/C決済でなく前送金方式を選んだ。それは輸入者が輸出者に対して不安を持たなければ、送金が銀行に支払うトータルの経費が安くて済むからである。
輸出代金の決済に最も広く使われるL/Cの発行は、輸入者にとっては銀行からの融資枠確保、銀行手数料の支払い、L/C決済までの金利の発生、為替変動リスクなどが生じる。もし輸出者の承諾が得られるならば、国内取引同様に商品受領後の支払いがベストである。もちろんその他の決済方法もあるので、輸入に当って品質・価格・納期で問題が無ければ支払方法の交渉となる。
一回目の輸出が終わり別件でのシンガポール訪問を機に、新バイヤーを訪れた。初対面であったが最初の注文に満足したと見え、商談もスムーズに進み二回目の受注となった。その後中華料理店に招かれ、美味しい料理に酒が加わり話も大いに盛り上がり幸せ気分に浸っていた時、相手から支払方法について提案があった。「前送金やL/Cでなく船積後の後送金にして貰えないだろうか?」ほろ酔い気分の中、面と向かって信用して欲しいと言われ了解してしまった。二回目注文の船積後、送金依頼をしてもなかなか入金がされず全額回収までは到らなかった。
商談の中で相手は様々な球を投げてくる。緩急織り交ぜての直球・各種変化球を繰り出し選球眼を観察しながら、自分にとって有利な配球の組み立てを考える。私への配球は、前送金(貴方を信用していますよ)→ 二回目の注文と歓待(感激)→ 後送金の提案(宴席・面前・日本人の性格)→ 支払い遅延。 私は術中にはまって三振である。通信による商談は考える時間が有るが、海外を訪問しての交渉事は、その瞬間が真剣勝負となるので、酒がはいった時は人間交流に留めた方が賢明なようだ。
(貿易ニュース鹿児島2003.9月号掲載)

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