その18
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その18
1昨年のBSEに続いての鳥インフルエンザの発生は貿易に多大な影響を及ぼしている。そこでこの様な突発的出来事、何の前触れも無く政府による突然の輸入禁止措置が取られる事態に対し、どの様に対処したら良いか考えてみたい。
日本国内での高病原性鳥インフルエンザウイルス発生では、発生元の鳥類は全て処分し周囲30km以内の鳥類、鶏卵の30日間移動禁止処置が取られた。その対象農家に対してはその間の経済的損出への補償が政府・自治体で検討されている。一方政府による輸入禁止措置発動で、鶏肉やその加工品の輸入が不可能になったり輸出国から貨物が積み出され日本に向かっている貨物或いは既に貨物が到着して通関待ちしている等の引掛り貨物への補償を輸入業者に対して政府が検討しているとは聞いていない。
当社では牛骨粉を含む複合肥料を中国から輸入していた。それはシラス土壌の鹿児島では、牛骨は必須肥料原料でその相当数量が中国、インド、パキスタンから輸入されていた。しかしBSE発生の原因が解明されていく中で牛骨の輸入が禁止された。幸いにも当社の牛骨粉を含む複合肥料の輸入は通関後の通達で被害は免れたが、時間と経費を掛け育てた商材は一瞬にして消えた。もちろんこれにめげず、燐酸源として牛骨以外の原料を探し顧客に提案してこそ頼られ必要とされる商社でありそこに新たな商機が生まれてくるのだが。
突然の輸入禁止措置に対処する手段として、輸入信用状(L/C)の条件に付記できないかを考えた。それはその商品が輸入国政府によって輸入禁止措置が発動された時、L/Cは取り消され効力を失う。即ち注文取消しによって発注貨物輸入による色々な損害を回避出来る。しかしながらL/Cには受益者(輸出業者)にとってそのような不利、不安定な条項(条件)は盛り込めない事になっている。またL/Cは通常取り消し不能で(もちろん輸入業者の判断で取り消し可能なL/Cもあるがそれでは輸出業者が納得しない)受益者の同意無くしてはL/Cの内容の変更は不可能である。であれば事前に輸入しようとする商材の考えられる諸々のリスクについての対応策を検討して、その最大リスクが会社にとって大き過ぎる場合は輸入を諦めるか、或いは国内仕入にすべきでは。またそのリスクが輸出者の協力で回避出来ると考えられる部分については輸出者と相談し理解を得た上でそれを契約書に謳う事が必要である。
(貿易ニュース鹿児島2004.3月号掲載)
モスクワより
日本貿易振興機構(ジェトロ)モスクワ出張所 代表 村上 久
鹿児島の皆さま、дравствуйте!(ズドラーストヴィチェ:「お早うございます/今日は/今晩は」すべてに使える便利なロシア語の挨拶の言葉です。)
ジェトロ・モスクワ出張所代表の村上と申します。私は1998年11月から2001年8月までの約3年間、ジェトロの鹿児島貿易情報センターに勤務しており、皆さまには大変お世話になりました。
爆弾事件、大型レジャー施設の崩落事故など、暗い話題ばかりのロシアですが、拡大する景気は衰える気配を見せません。最近では、新たなビジネスチャンスを探しに自分の目でロシアを見に来たという出張者の方々が増えていますが、ほとんどの方が想像よりも遥かに良かったと感想を述べられています。
<キャビアはイクラ?>
さて、皆さまはロシアでの生活についてどのような印象をお持ちでしょうか? パンを買うための行列は大げさにしても、あまり豊富に商品が流通していないとお考えではないでしょうか。
モスクワ市街
恥ずかしながら私も赴任する前までは、食料にも事欠く生活を想像していました。しかし、実際にはスーパーやブティックなどのお店が建ち並び、ありとあらゆるものを手にすることが出来ます。例えば、スーパーの品揃えは、生鮮食料品売り場が少々物足りないタイヨーと言えば、ご想像頂けるでしょうか。さすがに生鮮は日本には適いませんが、南方のコーカサスや中央アジアを含む旧ソ連諸国から届く食料品はとても豊富です。トマト、キュウリ、ジャガイモはもとより、お米、長ネギ、ほうれん草、果ては各種ハーブにキノコ類、夏には驚くほど安く美味しいスイカやメロンも出回ります。
また、川魚や冷凍もの、燻製が中心ですが、ロシア人もしっかりと魚を食べます(美味しい魚は日本に送られてしまうとのこと)。お酒のおつまみにロシア製のさきイカもありますが、これは極東の漁師が日本から持ち帰ったのが始まりとされています。飽きるほど食べることができると想像していたイクラは、残念ながら新鮮なものは日本に輸出されてしまい、モスクワに届くのは大抵がビン詰め、カン詰めです。ご存知かもしれませんが、イクラは「魚卵」を意味するロシア語。いわゆる日本語のイクラは「赤いイクラ」、同じくキャビアは「黒いイクラ」と呼ばれています。モスクワ市内で100グラム強のビン詰めの小売値が、それぞれ約600円(イクラ)、約10,000円(キャビア)とこちらでも高嶺の花です。
<ロシア人は日本好き?>
モスクワでは、空前の日本食、寿司ブームと言われています。一説には、日本食レストランだけで200件以上が開業し、メニューに寿司があるレストラン、バーは数え切れないほどです。恰幅の良いロシア人が器用に箸を使いこなす様は、今では当たり前に見られる光景です。値段はピンからキリまでで、デフレ傾向の日本より割高です。味はご想像にお任せしますが、日本人の板前さんのいないレストラン(これがほとんど)では、どうしてもロシア風になってしまうようです。また、日本食レストラン用の和風内外装品、小物、回転寿司の設備、さらには寿司ロボットに至るまで、様々な引合いもあります。
ブームの背景としては、ロシア人が新しいもの好きであること、健康志向の高まり、お洒落なイメージ、元来からの米食文化等々が挙げられますが、根底には「日本に対する非常に良い印象」があるのではないかと思います。ソ連時代には、工作機械を始めとして各種日本製品が輸入され、品質が良く耐久性も高いことから現在でも大事に使用している光景を目にします。またソ連崩壊以降は、自動車や家電製品など身近な商品が多く輸入されていることもあり、一般消費者にとって日本のモノは良いというイメージが確立されているようです。
これだけ流行している寿司ですが、そのネタのほとんどがヨーロッパ、そしてアメリカから輸入されてきます。運良くハマチを口にする機会に恵まれた時などは、ニューヨーク経由で遠路遥々モスクワまで辿り着いたのではないかと鹿児島に思いを馳せたりします。日本からモスクワまで直行便で8時間程度ですから、本当はニューヨークやロンドンよりも近いのです。
<ロシア人も緑茶を飲む?>
ロシア人は実に良くお茶を飲みます。ある統計では、一人当たりの茶葉の消費量が、アイルランドに次いで世界で2番目に多いそうです。(イギリスは嗜好が多様化し近年減少。)アイルランドの人口がおよそ400万人、対するロシアの人口が同じく1億4,500万人ですから、ロシアの消費量は相当なものです。主に紅茶が中心ですが、砂糖をたっぷりと入れて、日本の緑茶と同じように一日に何度も飲みます。紅茶にジャムを入れるロシアンティーという飲み方を耳にされた方もいらっしゃると思いますが、ロシアのメニューにはありません。たまに、ジャムあるいはハチミツを小さなスプーンですくい取って、舐めながら飲むことがありますが、大抵は砂糖にミルク、またはレモンを入れます。
さて、ロシア人は主に紅茶を飲むと書きましたが、緑茶を飲む習慣もあります。ソ連時代には、緑茶はコーカサス地方のグルジアで盛んに栽培されていましたし、現在も中国、スリランカ、ベトナムなどから年間6,500トンあまり輸入しています。(2002年度)
ロシア初の日本茶専門店
ロシアでは、レストランなどの飲み物はすべて有料であり、日本食レストランも例外ではありません。当然ながら、緑茶を中心に提供しているのですが、たとえ日本茶を謳っていてもジャスミン入りであったり、レモン入りであったりと、日本人には理解できないものばかりです。これらが100ルーブル(およそ400円)前後で売られているのですから驚きです。そして日本食レストランだけでなく、新規開店が相次ぐカフェにおいても、同様の値段で緑茶が販売されています。
そこでジェトロモスクワでは、美味しい日本茶をモスクワの人々にも知ってもらおうと、静岡県と共同で日本茶のプロモーションを実施しました。昨年は食品関連の見本市に出展したほか、プレゼンテーションを開催したり、企業訪問などを通じてPRを行いましたが、「今まで飲んだ事がない爽やかな味」と概ね好評です。見本市出展や企業訪問などを通じた引合いも寄せられており、今後、具体的なビジネスに結びつくことも期待されます。鹿児島茶のファンである私としては、鹿児島のお茶をモスクワで楽しめる日を心待ちにしています。
最後に、ロシアの景気の良さを表すアネクドート(皮肉を含んだロシア独特の小咄)とロシア関連ビジネスに役立つウェブサイトをご紹介します。
【アネクドート】
◎お金は捨てるほどある・・・
(日の出の勢いのニューリッチが、メルセデス・ベンツの最高級モデルを買いに来た。)
ディーラー :「失礼ですが、3日前に同じモデルをお買い上げになったばかりではありませんか。」
ニューリッチ:「そうなんだ。しかし、灰皿が一杯になってしまったから・・・」
【ロシア関連ビジネスお役立ちウェブサイト】
<経済・ビジネス>
・ジェトロ「~知られざる振興市場~ロシア・中央アジア・コーカサス」
http://www.jetro.go.jp/se/j/russia/
・ジェトロ「海外情報ファイル」
http://www.jetro.go.jp/jetro-file/
・ジェトロ「海外簡易情報照会・委託調査・外国企業信用調査」
http://www.jetro.go.jp/se/j/jousa/keizai04.html
・経済産業省「対外経済政策総合サイト・ロシア」
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/rus_nis/russia/index.html
・北海道庁国際課ロシア室「ロシアビジネス情報館」
http://www.pref.hokkaido.jp/soumu/sm-tksai/russia/r-spro/database/rbdb/
・社団法人ロシア東欧貿易会
http://www.rotobo.or.jp
・米国商務省NISビジネス情報(英語)
http://www.bisnis.doc.gov
<治安・旅行>
・在ロシア日本大使館「モスクワ安全滞在マニュアル」
http://www.ru.emb-japan.go.jp/japan/anzen/anzen.html
・エコノミスト「シティーガイド・モスクワ」(英語)
http://www.economist.com/cities/citiesmain.cfm?city_id=MCW
<マスコミ>
・モスクワ・タイムズ紙(英語)
http://www.themoscowtimes.com
・イタル・タス通信(ロシア語・英語)
http://www.itar-tass.com
・ラジオ・フリー・ヨーロッパ・ラジオリバティー(英語)
http://www.rferl.org
村上氏へのご質問等は下記までご連絡ください。
【ジェトロ モスクワ】
Hotel “Slavjanskaya”, South wing, Entresol floor, Berezhkovskaya Nab.2, Moscow, 121059, Russian Federation
TEL:+7(095)-941-8866/ FAX:+7(095)941-8869/ E-mail:murakami@jetro.ru
その17
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その17
最近新聞やテレビでFTA(自由貿易協定)が話題になる。そこでFTAは私たちの貿易にどの様な影響が有るのか考えてみたい。
貿易を営む業者にとっては、何らの制限や干渉も無く、あらゆる物を自由に外国と取引できることが理想である。しかし国・地域間では経済発展の歴史・産業構造などが異なり、同一の条件下で国際競争を行うには無理が有る。また日本国内にも産業間に同様な問題が存在し、貿易の完全自由化と言いつつも、輸入制限、関税賦課そして非関税障壁と呼ばれる保護政策が取られているのが現状である。それでは現在の日本の貿易政策でどんなデメリットがあり、FTA(二国間自由貿易協定)が締結されたならばどのようなメリットが考えられるであろうか。
最近の貿易相談で多いのはフイリピン、インドネシアなどASEAN諸国への中古車の輸出であり、輸入においては魚類を始めとする農水産物の日本への輸入である。ところが日本の中古車、或いは中古品の輸出は一部の国を除いて輸入が禁止されている。それは自国経済への影響を考慮しての措置である。しかしその国が全ての国からのそれらの輸入を禁止しているかと言えばそうでもない。例えばインドネシアはマレイシアからの輸入は認めている。また同一の商品でも日本からの輸入とマレイシアからの輸入では、日本からの輸入関税は高くマレイシアからは無税といったケースも有る。それはマレイシアとインドネシア政府間の貿易協定によるものである。
一方日本は農水産物の輸入では、輸入禁止の品目は無くなってきたが、高い関税率、数量枠の設定、輸入者の制限(許可制度)、品質検査(検疫)の独自設定などで一次産業保護の輸入制限を行なっている。最近メキシコとのFTA交渉で話題になった豚肉の関税は、通常は輸入価格の掛け率で計算されるが、豚肉はいくら輸入価格が安くても課税価格が決められ、安く輸入出来ない事で輸入数量が抑えられている。またIQ(輸入割当)商品は、政府の管理下で輸入者と数量が決められ、誰もが自由に好きな数量輸入出来ない様になっている。
FTAの締結は、日本の農水産物の輸入緩和を意味する。即ち関税の低率化、IQ商品の絞込み或いは撤廃。一方輸出においては相手国が日本の製品に課していた規制、関税などが改善され双方の貿易は拡大する。その時を新たなビジネスチャンスと捉え、日本政府と何処の国が交渉に入っているか、そしてどの様な内容が話し合われ合意されるかを注視しつつ、取引可能商品を調査研究することが肝要である。
(貿易ニュース鹿児島2004.2月号掲載)
その16
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その16
今月号は何を書こうかと迷っている時に「為替リスクを輸入専業業者はどの様にすれば回避出来るか」とのお尋ねがありましたので、このテーマで筆を進めます。
貿易業を創業して22年、その間の為替を見ると円高の流れであった。1ドル260円が79円迄動き、約3.3倍も円が強くなった。輸入する側から見ると、1個100円の商品を33円で買える様になった事になり、市場売価が下がってきたのでその全てが利益では無いにしても、輸入業者の差益は相当の額に上ったのでは。一方同時期、輸出専業業者は1個100円の商品を33円で輸出する事に成るので、大きな痛手を受け、中には貿易業界から消えざるを得ない企業も出た。輸出入を同時に手がけた企業は円高差益とは無縁で、如何にリスクを回避するかで緊張の連続であったと思われる。私自身は輸出専業でスタートして手痛い打撃を受け、そして輸入を始める事により輸出入のバランスを取り生き延びてきた。
輸入専業者にとって為替リスク回避は非常に簡単である。それは輸入商談時の為替相場を基に原価計算がされたわけだから、商談成立と共に為替予約を銀行に入れる事で、その期間内に起こるかも知れない相場の変動リスクから開放される。しかし問題は人間の心理であり予約したことによる結果である。為替相場が動くことでの差損はいやだけど、運(偶然)が味方した時の差益体験(円高による利益)はなかなか頭から消えない。勝負事でも頭の片隅にある残像は勝利の興奮であり、負けても次は再び美酒をと挑戦したくなる。為替を予約するという事は、予約期間内の差損は回避されるが差益は得られない。予約の結果が逆に振れた時、即ちさらに円高に動くと予約しなければ利益がいくらあったと後悔し、場合によっては犯人探しが始まり社内に犠牲者を出すこともある。為替予約によって原価は既に決まり、初期の利益は確保されたはずなのに。
為替リスクの回避は前述の様に簡単である。それを実行するにあたり、リスクとは円安になる危険を回避する事であり、予約をした事が最善の選択であったと認識する事である。もし為替差益も得たいと思うのであれば、何もせず運を天に任せるのも一考である。
(貿易ニュース鹿児島2004.1月号掲載)
その15
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その15
貿易には様々なリスクが伴うが、相手国の事情で損害を受けたりビジネスチャンスを失うこともある。それは1企業の管理能力を超えおり、この種のリスクの予測はかなり難しいので、1カ国に取引を集中しないことが肝要である。そのような考え方から最近の中国一極集中への警笛として「中国プラスワン」という言葉が新聞や書物で取り上げられる様になった。それは昨年の中国におけるSARSの発生による混乱、中国元の安さ(20年前と比較すると1/8に切り下げられている)に対する世界各国の切り上げ圧力による中国元の切り上げ懸念のリスクヘッジとして、中国に取って代わる取引相手国を持つべき、との考え方である。
輸入相手国として中国の代わりを1カ国だけで補うことは、人口・面積・資源・人件費などを考えると困難と思われる。そこで分野別・商品群ごとに、品質・価格・ビジネスサービス面で中国と同等、或いは勝る国を探すことによりリスクを回避する、との考え方が賢明であり現実的である。以下に私の経験から東南アジア主要3ヶ国がどの分野で「プラスワン」に成り得るかを述べてみたい。
1.ベトナムの優位性は人的資源とメコンデルタの肥沃な土地と自然である。
勤勉で誇り高きベトナム人の人件費は中国より約30%安い。中国と同じ社会主義の国とは言え南ベトナムが社会主義経済に組み入れられたのは27年前の事で、市場経済を理解する素地があり、商習慣の違いによるトラブルも少ない。具体的には、軽工業品、農水産品が有望で、他の商材でも中国との違いは、少量の注文にも応じてくれる事である。
2.インドネシアは歴史的発展段階から見ると、本来ならば現在中国と肩を並べているか、中国の先を行ってしかるべきであった。しかしながら政治の不安定、宗教や貧富の差から来る社会不安・混乱でASEANの巨像は留まったままである。それでも豊富な資源を活用した木製品、水産品、一部の農産物・鉱物資源は十分に競争力を持っている。また現地通貨ルピア安が魅力を発揮する瞬間が有る。
3.タイは殆ど全ての分野で中国製品に取って代われるので、保険を掛ける先としては最適国であるが、問題は価格が少し高い事である。それでも農水産加工品、工業製品、装飾品、木製品では一日の長を持っている。また国際商習慣や日本市場に精通しているので取引の中でのクレームが少ない。
先に述べたようにカントリーリスクを予測することは難しいが、常日頃より世界の動きに注意を払う事により、リスクを少しでも回避することは可能と考える。リスクの無いところにリターンは無い。
(貿易ニュース鹿児島2003.12月号掲載)
タイ・ベトナム経済ミッションに参加して
タイ・ベトナム経済ミッションに参加して
鹿児島中央青果株式会社 常務取締役 中馬 正裕
タイは、東南アジアにあって、政治・経済情勢が安定している国であり、また、フルーツを始め熱帯特有のバラエテイに富んだ食品や、伝統的なタイシルク、雑貨など、特異な産品を数多く有している。
また、ベトナムは経済改革・開放政策を進めており、既に日本はベトナムにとって最大の貿易相手国となっている。また日本国内では、ベトナムの食品・雑貨、衣料のブームが起こるなど、こんご益々の経済交流の発展が期待されている。
このような状況の中、県貿易協会からタイ、ベトナム経済ミッションの募集があり参加した。
当社は、鹿児島市中央卸売市場で青果の卸売り業を営んでいる.。近年生鮮青果物の輸入も年々増加傾向にある。
経路は、鹿児島―ソウルーバンコクーホーチミンーソウルー鹿児島であり、鹿児島発着のためタイ・ベトナムが非常に身近に感じられた。
21日~22日 バンコクでは丁度APEC首脳会議開催中で、町並みは割りと整理され犯罪・テロ対策がなされていた。
タイでの楽しみとしていた本場での果実の味であったが、ホテルで出されていたものは総じて完熟度が低く期待はずれの感があった。露店で買い求めたランブータン・バナナ・青ぎりみかんに似たタンカン味の柑橘は旨いと感じた。
商談会はバンコク国際貿易展示場で行われた。商談会に先立ちジェトロバンコクの巴氏よりタイの経済事情について説明がなされた。
タクシン政権による国内需要振興策 その中でも農家所得の向上に向けて農家の借金3年間凍結、ピープルズバンクによる無担保による融資、等々である。これらの策により倹約から消費への経済動向となり、車・携帯電話は好調とのこと。
尚今回の商談会は初めてのことであり具体的な商談はできなかったが同行した他業者の動き、又商談の進め方について実地勉強となった。その後展示場で開催されていた国際ギフトハウスウエア・市中繁華街にあるバンナーブ市場・翌日再度商談会とバンコク伊勢丹等の市場視察をおこなった。恥ずかしながら日本の伊勢丹は見たこともないため市場視察とはおこがましい気がする。陳列・品数も豊富で洗練された印象を持った。
23日~24日 ホーチミン市ではアオザイを身にまとった多数の女性の往来を想像していたが、町中バイクの洪水でその多さには感動的でもあった
省エネを実行していると思えば、地球に優しい・環境に優しい交通手段であり、この部分では省エネ先進国であろう。
商談会は宿泊ホテルで行われた。商談会に先立ち商工労働部次長海外投資アドバイザーの市川氏より説明がなされた。
今、ベトナムへの投資が積極的に行われている。その理由として ①中国重視の投資だけでは不安である。人民元の価値が実態より安く設定されていることから来る不安。長い目で見ると政治的・経済的・社会的にリスクがあること。取引に問題が隠されている中で常に金は要求される。これらにより中国プラスワンとしてベトナムが上がっている。 ②日本ではこれ以上のコストダウンはできない。主にこの2つの理由によりベトナムへの進出が盛んになっているとのことであった。その後個別商談会がなされたが生鮮青果物については安全・安心・輸送等を確認し、慎重にやる必要を感じた。
その後市場視察を行ったが、ドンコイ通りにあるベンタイン市場は日常品で溢れんばかりの活気を呈していた。
次に国営の工業団地に、日本からの進出企業としてあのたこ焼きで名を売っている八ちゃん堂があり、工場見学をした。ここでは日本の種・栽培技術でナスを栽培し、それを焼きなすとして急速冷凍し、日本向けに輸出している。
一日3~4トンの処理とのこと。青果物を扱っている身としては考えさせられた。
今は雨季の終わりの気象とのこと。突然の雨に打たれても市場もバイクも何事もなく動いている。そういえばホテルや街路に大きな鉢物の木がよく目に付いた、水やりは大変だろうと思ったのは余計な心配、省エネ雨が降ってくる
日常業務をはなれ、異業種の方々との海外での商談視察は私にとって見るもの聞くことが新鮮であり、又職業柄 日本の食料供給熱量自給率40%の中でアジアとのかかわりをどうしていくの改めて考える機会と成った。
機会を作って再度行きたいものである。
その14
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その14
私は地元企業より、海外進出(合弁・単独)についてアドバイスを求められたり、外国企業の買収(M&A)の仲介を依頼される事がある。そこで今回はそれらの事例を紹介します。
ある食品メーカーの幹部4人が中国に工場を建設したいのでアドバイスをして欲しいと事務所に見えた。既に中国とは取引が有り、取引先の工場で技術指導や検品の為に2-3ヶ月の滞在経験を持つ皆さんより今後の計画についての説明を受けた。私は、「この4人の中でどなたが責任者として赴任される予定ですか」と質問した。すると、「工場の予定地は田舎で、そこの生活環境がどの様なものかを知っているので私達は行きません」、「じゃ誰が行かれるのですか」、「それは決まっていません」。私はその答えを聞いて「中国に進出する前に人の養成が先では。現地を知るあなた方経営幹部が行かれるのであれば細かい相談に乗りますが」と。その後このメーカーは自前の工場建設計画を凍結し製品輸入のみを従来通り行なっている。
ある製造業の社長より、海外に製造現場を持ちたいが現地政府の許可や環境問題を考えると、ゼロからの立ち上げは大変なので現地企業を買収して欲しいとの要請があった。そこで事前調査後、社長と一緒に東南アジアの企業数社を訪問した。その中に社長のメガネにかなった工場を、数ヶ月の交渉を経て希望通りの条件で企業買収終え、社内での社長からの発表となった。その話を聞く社員の目は輝き、社長の顔は自信に溢れ眩しく見えた。その買収企業を立ち上げ、運営するためには技術者を含む最低3人が海外赴任しなければならない。人選を始めると意中の複数の人が、家庭の事情で日本を離れるわけに行かない旨の話をする。結局選考の結果は、消去法で家庭的に問題が無い技術者と単に語学力のある人が派遣された。その後の結果については読者の推察におまかせします。
海外進出は日本における営業所立ち上げや工場建設とは明らかに違う。生活環境、言葉、法律、習慣、価値観等が異なる中での事業は、距離的な問題もあり日々起こる事柄に対しての適切な判断が可能な経営感覚(能力)を備えた人材の派遣が望まれます。ややもすると語学を最も重要なファクターと考えがちだが私はそう思わない。それは日本における起業(創業)以上の覚悟と準備が必要で有ると考える。
(貿易ニュース鹿児島2003.11月号掲載)
鹿児島に来て
鹿児島に来て
韓国全羅北道庁自治体職員協力交流研修員 崔 洪烈(チェ ホンヨル)
こんにちは!
私は韓国全羅北道から参りました崔 洪烈と申します。今年5月26日に日本に着きまして,7月初旬まで佐賀県にある研修施設で日本語研修を受け,7月10日から来年2月初旬まで,鹿児島県庁で業務研修を受けることになっております。経済大国である日本に来て,自分の業務に関する研修を受けられることを光栄に思います。
私は現在,韓国全羅北道庁投資通商課に所属しております。約20年前,全羅北道沃溝郡庁の公務員として働き始め,今まで総務,予算,税制,経済などの業務を担当してきました。
家族は妻,娘一人,息子二人がおり,妻は専業主婦,娘は高校二年生,息子二人は中学生と小学生です。豊かな生活とは言えないまでも,円満な家庭生活を送っております。
日本に来て最初は,食べ物,文化,気候や言葉の違いにより多少苦労もありましたが,関係機関や職員の方々の親切で暖かい配慮により,今では日常生活にも慣れ,安定した生活を送っています。
9月には鹿児島県商工政策課で研修しましたが,商工会議所,貿易協会など多くの経済関連団体及び企業などを訪問・見学する機会を得ました。その度に各機関の方々から優しい心配りをいただき,心から感謝しております。
商工政策課での研修後は,同じ経済部署である工業振興課,中小企業課,観光課でも研修を受けることになっております。
鹿児島は自然が豊かで,街がきれいに整備されている美しいところだと思います。鬱蒼とした森の木々,至る所に広がる青い海,街を飾る椰子の木など,南国の趣に溢れています。優しくて親切な人々はいつもまわりに迷惑をかけないよう配慮し,余裕を持って自分の生活を楽しんでいるように見えます。特に,「すみません」「ありがとうございます」などの言葉をよく口にするにこやかな姿が印象に残ります。
鹿児島は地理的に日本本土の最南端に位置し,海と面しており,韓国や中国まで飛行機で1~2時間くらいで行けるなど,東南アジアへの進出にとても有利な地域で,この地理的な利点を生かせば,ますます発展できるものと期待しています。
最後に,全羅北道と鹿児島県は両道・県の発展のための友好協力に関する共同宣言に調印して以来,各分野での交流事業を活発に行っています。何よりも,経済部門に関する事業がより活発になり,世界の中心に位置付けられる両道・県になればと思います。
私もこれから頑張って,日本の文化や知識を学び,微力ながら自国での仕事に反映させていきたいと思います。皆さんどうぞよろしくお願いします。
海外事業展開の為の基礎知識
当協会の金融専門の貿易アドバイザーが,今まで寄せられた金融関連相談事例の中から,是非知っておいていただきたい海外事業展開の為の基礎知識を紹介するコーナーです。
講師は福元 雅英アドバイザー(鹿児島銀行アジア貿易投資相談所 所長)です。
今回は7月28日(月)に講演いたしました「ミニ貿易実務セミナー」の中から,是非知っておいていただきたい海外事業展開の為の基礎知識をご紹介します。
「外国為替」とは「国際間の貸借を安全かつ円滑に決済するために現金を用いることなく、資金を移動させること」と解釈することができます。
「国際間の貸借の決済」とは「異なる通貨どうしの決済」であり、そのためには「異なる通貨どうしの交換比率」である外国為替相場が必要になります。
今回は、この「外国為替相場」の基本的な種類について説明します。
売り相場と買い相場
外国為替相場には、売り相場と買い相場がありますが、この呼び方は、銀行を主体とした呼び方です。したがって、「売り相場」とは「銀行が顧客に外貨を売る時の相場」であり、顧客から見れば「外貨を買う時の相場」になります。
(例) 輸入取引では、輸入者が代金支払いのための外貨を銀行から「買い」ますので、 銀行の「売り相場」を使います。
銀行間相場と顧客相場
銀行間相場とは、「銀行間で使われる相場で、実勢相場のこと」ですので、ニュース等で「現在の為替相場は、118円の10銭から15銭」という風に発表される相場のことです。
顧客相場とは、「銀行が顧客との外国為替取引に適用する相場」であり、毎日午前10時頃の銀行間相場(実勢相場)を基準として決められます。
つまり、顧客相場は、銀行間相場を卸売値とした場合の小売値になります。
(例)午前10時の実勢相場が、118.00円(基準相場)だとすると、基本的な顧 客相場は、売り相場で119.00円(基準相場+1円)、買い相場で117.00 円(基準相場-1円)という風に決められます。
直物相場と先物相場
直物相場とは「外国為替取引と同時に、または取引後2営業日以内に資金のやり取りが行われる取引(直物取引)に使用する相場」です。
先物相場とは「外国為替取引で、将来の一定時点または一定期間に資金のやり取りを行う取引(先物取引)に使用する相場」です。
(例)外貨の両替や外国送金等は、その取引と同時に資金のやり取りを行いますので、 直物相場を使います。これに対して、1ヶ月後に輸入代金を支払うような場合に、現 時点で1ヶ月後の相場を決めることができますが、この相場が先物相場です。
以上のように、基本的な外国為替相場の種類をいくつかの視点で分けることができます。
内容につきまして、お尋ねになりたい点がございましたら、鹿児島銀行アジア貿易投資相談所の福元(電話099-239-4896)へご照会ください。
(貿易ニュース鹿児島 2003.9月号掲載記事)
前回は、基本的な外国為替相場の種類について説明しました。
変動相場制のもとで、外国為替相場の変動は、貿易取引を始めとする外国為替取引の損益に影響を与えます。つまり、「為替リスク」が発生します。
この「為替リスク」を回避する最も有効な対策は、「外国為替取引を円貨建で行う」(例えば、貿易取引の使用通貨を円にする)ことですが、日本の貿易において「円」が使われる割合は、輸出で約35%、輸入で約25%と少ないのが現状です。言い換えますと、貿易取引においては、多くの場合で外貨(主に米ドル)が使われていることになりますので、為替リスク対策を検討せざるを得ません。
そこで、今回は「為替リスク対策」の中で、最も一般的な「先物為替相場の予約」について、お話したいと思います。
例えば、日本A社がアメリカB社から輸入を行い、1ヶ月後にその代金10万米ドルを支払うとします。A社が何も「為替リスク対策」を施さないと、1ヶ月後にその時点の為替相場を使って支払を行いますので、運良く現在より「円高」になれば予想以上の収益があがりますが、逆に「円安」になれば為替損失が発生し、相場変動の幅によっては、取引採算に大きな影響を与えることが十分考えられます。(このケースでは、1円の円安で10万円の損失が発生することになります。)
「先物為替相場の予約」とは、将来行われる外国為替取引に使用する相場を現時点で予約する(決めてしまう)ことです。これにより、将来使用する外国為替相場(先物相場)を確定することができます。先ほどのA社が「将来は現在より円安になるかもしれない」との予想があれば、現在の相場水準を基礎とした先物相場を予約し、将来円安になるリスクを避けることができます。
「先物為替相場の予約」は、「手数料が不要で、手続きが簡単」、「将来の取引時期が確定していなくても活用可能」というメリットがある反面、「一旦予約した場合は、必ずその予約を実行しなければならない(予約の取消はできない)」という注意点があります。この注意点は非常に重要で、「先物為替相場の予約を行った場合、将来の実勢相場が自社に不利に動いた時の為替差損は避けることはできるが、有利に動いた時の為替差益は得られない」ということです。要するに「為替リスク」の反対の「為替チャンス」は、放棄せざるを得ないことになりますので、この点の注意が必要です。
今回は、「先物為替相場の予約」について基本的な点を説明しました。
今回の内容につきまして、お尋ねになりたい点等がございましたら、鹿児島銀行アジア貿易投資相談所の福元(電話:099-239-4896)へ気軽にご照会ください。
(貿易ニュース鹿児島2003.10月号掲載記事)
その13
当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!
その13
このコーナー(その3)で輸入商品の品質に対するチェックポイントを書いたが、今回は実際の取引及び商談例について述べます。
15年前地元のホテル関係者から綿タオルの輸入依頼があった。そこで綿花の生産国でもありタオルを含む綿工業が盛んなパキスタンからタオルを輸入しようと、パキスタン製造業名鑑(ダイレクトリー)を基に4社ほどピックアップ、そして輸入したいタオルの仕様書、必要数量を書いて、商品見本、価格を送付して頂く内容の手紙を出した。すると4社より見本と一緒に返事が届き価格と品質をチェックすると、うち3社は仕様に合致した見本が届いた。しかし3社の価格には当然の事ながら高低が有る。私は現地に行くことは経費の関係で無理が有るので3社の中で価格が一番高い業者に発注する事とした。それは品質面を考慮してのことである。しかしながら到着した貨物は見本と比べ品質の落ちる市場価値の無いものであり、安易に価格が高ければ高品質な商品が届くであろう、との考えが甘かった。その3社ともう少し電話やfaxでコミニケーションを取り判断すべきであった。
中国の華東交易会に参加した時、上海の製造業者のブースで魅力ある商品が目に入った。そこで早速見積書を貰って価格をチェックすると、十分過ぎるほど価格競争力があるので展示品の品質チェックをすると、車輪を回したときに少し音がする。この音がしないように出来ないかと尋ねると「日本人は如何してそんな細かい事を言うのか、その音が本来の商品の性能を損なっていますか」。この商品は消費者に直接販売するので、性能に直接関係ない部分でも日本の顧客の目は厳しいと説明しても理解してもらえなかった。またミャンマーでの商談では、二級品が発生するので一級品と併せて買って欲しいと言われた。日本では二級品の商品価値はゼロであり買えないと返事をすると怪訝な顔をする「一級品より安くするのになぜ買えないのか、品質の落ちるものは価格を少し安くするので買って欲しい」と。
上記2社とは結局取引をしなかった。それは品質に対する考え方に疑問を憶えたからである。見本は1個であり最も品質の良い物を見せているかも知れない。製造工程や原料のチェックは当然の事、経営者を含む製造責任者が品質に対してどの様な考え方を持ち、物づくりに携わっているかを知ることが重要であり、その取り組みの姿勢が最終製品の品質を左右するからである。
(貿易ニュース鹿児島2003.10月号掲載)