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弓場社長の貿易アドバイス

その25

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その25

弓場秋信氏輸出は支払条件を取り消し不能信用状(L/C)か前送金で行なえばリスクの無いビジネスであり新たな市場先となる。そこで鹿児島からの輸出有望商品は何があるだろうか? と考えると最も得意とする分野は農水産物及びその加工商品ではと思う。そこでそれらの輸出について商品別に書いてみたい。
まずは生産量全国第2位を誇る緑茶についての可能性を探ってみたい。現在日本からどれだけの緑茶が輸出されているのか昨年1年間の統計を調べてみると以下の通りである。

1. 正味重量が3kg以下の直接梱包 

国 名 重 量(kg) 金 額(千円)
米国  202,815    325,672
シンガポール   65,004    168,066
香港   62,771    106,134
台湾   28,723     72,763
ドイツ   26,882     72,178
タイ   23,724     60,337
その他  132,677    232,786
合計  542,596  1,037,996

2. 賞味重量が3kg以上の直接梱包(現地で再梱包或いは業務用と思われる)

国 名 重 量(kg) 金 額(千円)
米国  66,125 113,128
ドイツ  35,105 57,511
英国  24,650 49,418
台湾  21,745 20,287
オランダ  20,440 46,799
フランス  15,612 73,672
その他  33,791 69,770
合計 217,468 430,585

日本からの昨年の緑茶輸出合計は760トン、金額では14億7千万円。世界的に健康への関心が高まる中、日本食ブームが緑茶の需要を伸ばしている。国別では米国が一番のマーケットで、続いてアジアNICS、EU、東南アジアの順となる。
760トンが既に輸出されている中で鹿児島産のシェアーが気になるところではあるが、この実績は大きな勇気を与えてくれる。また今後輸出先を開拓するときまずは攻めるべき国である。そして日系人口、日本食レストラン数、日本食材の輸入卸業者、富裕層の消費トレンド、輸入食材の貿易管理などを調査してアタックしてみては。
(貿易ニュース鹿児島2004.10月号掲載)

その24

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その24

弓場秋信氏鹿児島県貿易協会では県からの委託事業として毎年海外商談会を開催している。今年度の実施は10月25-30日、タイとマレーシアでの開催。以前このコーナーで商談会参加のメリットと成果を上げる為の取り組み方について述べたので、今回は訪問国タイの魅力について書いてみたい。
タイの一番の魅力は、農水産物から工業製品まで欲しい商品がほぼ全て見つかる事である。南北に伸びた日本の1.36倍の国土は、多様な原料を豊富に生む供給基地であり、隣国カンボジア、ラオス、ミヤンマー、マレーシアからも不足気味や異なる原料が安い価格で輸入される。この豊富な原料と良質な労働力、そしていち早く導入された外国資本・技術との相乗効果で、原料から製品までの一貫生産を可能にした。
現在は事務用機器、音響映像機器、半導体電子部品、肉類、科学光学機器、家具、衣類・同付属品、農水加工品、穀類などあらゆる分野の商品が世界各国に輸出されている。ただ単に多様な商品を供給するだけでなく品質でも信頼を勝ち取っている。
バンコック郊外にある食品加工工場を訪ねるとその規模にまず圧倒される。事務所で白衣、帽子そして長靴に着替え、工場入り口でのエアーシャワーと消毒液で雑菌を除去して建物内に入る。最新の設備と大勢の作業者がロボットの如く働いている姿は圧巻である。同様な製品を製造する地元企業と、衛生管理・機械設備・品質管理を比較すると劣るどころか勝っているのではとさえ思える。それは工場建設時から先進国への輸出を目的とした設計設備であり、国際標準を満たす品質管理体制を敷いているからである。価格面で中国やベトナムに比し高い部分はあるが、仕様書通りの商品が届いたり品質面でのトラブルが生じた際の誠意ある対応など、トータルで判断するとタイからの輸入は十分に魅力がある。
通貨危機を克服し今や経済成長率は年率5-6%、一人当たりのGDPも2000米ドルを超え、国民の購買力は確実に高まっている。また日系企業の進出・再投資も盛んで日系企業にとってタイ国は東南アジアの中心であり、世界戦略の重要拠点である。購買力が増したタイ国民や企業向け商材と共に東南アジアで最も多くの日本人が住む現在、香港やシンガポールより市場が大きいタイに鹿児島食材の輸出に力を入れる時では。
この機会にビジネスチャンスがいたる所に転がっている魅力一杯の国タイを訪問し黄金に出会いませんか。
(貿易ニュース鹿児島2004.9月号掲載)

その23

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その23

弓場秋信氏直接輸入でより安く仕入れたいと誰もが思うが、それを躊躇する最も大きなファクターは届いた商品が見本と違う場合の損失である。そこで今回は注文した商品(梱包を含む)が見本と異なり通常の価格では販売できない時のクレーム処理の事例を紹介します。
マレーシアから到着の輸入雑貨のコンテナを開けると、商品自体には問題ないが化粧箱の印刷に光沢が無く少し汚れ、箱を閉じている部分は1回テープが剥がされた後が有り、その上に再度透明テープで封がされていた。それは中古化粧箱を再使用したと想像される。この商品が業務用であれば問題はないが、店頭に並ぶ商品の為にパッケイジの外観は売れ行きを左右するので販売は難しくなる。商品価値を通常の姿に持っていく為には、新しい化粧箱に詰め替える必要がある。そこでマレーシアの輸出業者に事の次第を説明し、新しい化粧箱を送ってほしい旨のメールを出した所「マレーシアから化粧箱だけを送ると海上運賃、通関費用、日本国内の経費等が必要になるので日本で作って欲しい。その費用は払いますので」との返事が返って来た。早速包装資材メーカーに見積りを依頼して、その見積書と日本での詰め替え作業用経費を書いて送った。その数字に異論を唱える事無く、その合計額が翌日電信にて口座に振り込まれた。
タイからの食品用原料の到着貨物を見ると見本と色が違う。お客さんからはこの色では使えないので貨物は引き取れないとの事。確かに見本とは明らかに異なりこれでは無理と判断してタイの輸出業者にクレームすると「今までこのようなクレームを受けたことは無いので見本を送って欲しい」との返事で、早速現物見本を送ると先方も納得した。しかし商品を送り返さないで値引きで解決できないかとの相談である。まずはお客さんに、今回色違いの商品が届いた原因や輸出者からのお詫びの英文とその和訳を添えて、品質はどうですかと尋ねると、「品質に問題は無いが、この現品を使用することで従来の色を出す為には価格の高い同品質の白い物を使う必要が有る」との事。値引きによる解決方法を見出すべく実損を計算し、それに顧客への迷惑料をプラスして輸出者に伝えると、この数字は受けられないとの返事。実損の補填はするが迷惑料は承知しかねると。従来単独での使用を考えていたが白色の同一品質商品を添加する事による製造工程での煩雑、色違いを何とかして使う知恵を出して頂いた誠意、そして今後の追加注文への期待が迷惑料の内訳と説明し受入れてくれた。
クレームの解決には輸出者が納得する事実の証明、即ち到着貨物の見本・写真・分析表等可能な限りの資料提供、クレーム補填数字の理論的根拠、輸入者が考える品質差異の原因などを感情的にならず冷静に根気良く交渉する事が求められる。また輸入者が輸出者の立場としてどの様な解決策を取るか考える事で解決方法が見つかる事もある。
(貿易ニュース鹿児島2004.8月号掲載)

その22

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その22

弓場秋信氏先月号でアジアのビジネスは「人間関係で動くルールの無い市場。それだけに面白い」との言葉を紹介した。国境を越えてのより良い人間関係の構築は、お互いを理解し尊重する事から始まるのでは。今年海外商談会で訪問するマレーシアの国や人々をより理解する一助になればと思い、あえて複合民族国家のデリケートな部分について触れてみます。
マレーシアはマレー系(マレー人とボルネオ島の先住民族)社会の貧困追放と国内の人種間経済格差の是正を目標とした「ブミプトラ政策(マレー系優先)」を1971年に打ち出し現在も続いている。それは社会を構成している組織や制度の中に人種間シェアー割当制度を適用し、マレー系と華人・インド人の比率が政府により決められている事である。具体的には企業の株式保有率、人種構成にあった雇用比率、奨学金、教育訓練等など・・。例えば公務員の採用者数をマレー系60%非マレー系40%とあれば、受験者は同じ人種内での競争となる。この制度は非マレー系の人々には非平等政策と映るが、各人種間では言語・宗教・生活習慣に余りにも大きな違いが有り同一化は難しい。また35年前の人種暴動事件では多くの犠牲者を出した経験からマレー系の先住性を考慮し複合民族国家運営の知恵として始まった。
マレーシアの各人種の性格についてある例え話で語られることがある。それは、マレー人、華人、インド人の3人がジャングルに住むマレーの虎を観に行こうとの話になった。マレー人曰く「危険だから止めよう」、華人は「面白い、危険ではあるが観に行こう」、インド人は「面白い、行きたいが虎を見るのが嫌いだから行かない」。分析は読者にお任せしますが、職業選択・適応性にもその性格だ出ているように思う。職業を乱暴に大別すると、マレー系は公務員と一・二次産業従事者が多く、華人は商人そしてインド人はゴム・パーム農園の従事者と医者・教師・弁護士等となる。
政府が窓口のビジネスでは、交渉相手はマレー人が中心となる。彼らが信仰するイスラム教の教義について一般的な知識を持ち、宗教に基づく行動を尊重することで信頼が得られる。民間企業との取引では華人が中心となる。彼らは中国本土で見られる拝金主義とは違い、信義を重んじ信頼関係を大切にする。彼らと親しくなると先程の「ブミプトラ政策」が話題になりコメントを求められるが、この政策には内政不干渉の姿勢が肝要である。インド人との接点は非常に少ないが、彼らは弁が立ち書類作成能力も高いので現物・現場重視の交渉が大切である。
マレーシアでは多くの場面で人種の話が出る。その背景と及ぼす影響を考慮しながら接することでビジネスマンとして認められるのでは。
(貿易ニュース鹿児島2004.7月号掲載)

その21

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その21

弓場秋信氏鹿児島県貿易協会主催海外ビジネス商談会が、マレーシアとタイで11月開催される。以前このコーナーで貿易商談会参加のメリット及びそれを最大限生かす為の取組・心構えについて述べたので、今回は商談先マレーシアについて書いてみたい。
マレーシアの面積は約33万k㎡と日本の約0.9倍ではあるが、平地が多く耕作面積は日本を凌ぐ。人口約2,500万人の民族別内訳はマレー系65%、中国系26%、インド系8%、その他1%で、異なる言語・宗教が混在する複合民族国家で東南アジアの縮図を見るようである。政治体制は立憲君主制(議会制民主主義)で、1957年イギリスからの独立以後47年間で、現在の首相アブドウラ氏が5代目と政治的混乱もなく安定政権が続いている。4代目首相マハティール氏が提唱した「ルックイースト(東方政策)」は現政権に引き継がれ日本との関係も極めて良好である。経済面では日系企業を始めとする外国資本による電気製品、豊富な原料を活用しての化学製品・木製品そして原油、LNG、パーム油が主な輸出品目である。豊富な天然資源と社会資本の充実したこの国は、一人当たりのGNPも4000ドルと中進国への仲間入りを果たし、「2020年には先進国を」のスローガンの下官民上げて実現に向け燃えている。
今回の商談会に望むにあたり他の東南アジア諸国より勝るであろうと思われるマレーシアの輸入商材を挙げると、まずは先程の輸出品目及びその周辺商品、中でも家庭用電化製品や家具は見るべき商品が多い。水産ではエビ、鰹、小魚、魚粉、くらげ等が面白い。最も統計に表れる商材は既に取引が行なわれているので商売としての妙味に欠ける。醍醐味は余り皆が手を出さない商品を見つけ世に送り出す事で利益が得られることである。マレーシアは治安の悪化で国の信用が揺ぐ、外貨不足から海外送金が危うくなるといった事態に陥った事は無い安心して取引出来る国である。また国民所得の向上や小売業の近代化と日本食の普及は、鹿児島食材を始めとする日本製品の輸出先として大いに期待が持てる。今回の商談会をその第一歩としては如何でしょうか。
最近主婦層で人気の韓国ドラマ「冬のソナタ」の日本での独占放映権を長期間の交渉の末取得に成功した丸田智子さんが「アジアはビジネスが人間関係で動くルールの無い市場。それだけに面白い」と新聞に書いていた。アジアとのビジネスはまずは人間関係の構築から始まる。お互いの価値観の違いを認め尊重することがその一歩となるのでは。
(貿易ニュース鹿児島2004.6月号掲載)

その20

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その20

弓場秋信氏商品を海外に売り込むとき相手の顔も見ず、信用状況も調査しないでFax、メール、手紙のやり取りで商談・成約し、物を送るケースがある。それではリスクが高いので支払条件は、商品を送る前に代金を受け取るか、或いは輸入者が発行後取り消し出来ない一流銀行発行のL/C(信用状)を受け取ってから商品を送ることが大原則である。しかし売上欲しさと慣れから、原則を離脱した取引を行なう事もある。
弊社では従来から中古機械を輸出していた。ある時バングラデシュから中古機械を輸入したいとのメールが届いた。内容を見ると供給可能な商品メニューなので早速見積りを送ると次の日には返事が届き相手の希望購入価格が書いてある。それは微々たる差額で希望購入価格を受入たProforma Invoice(商品名、数量、単価、船積予定日、L/C100%の支払方法等を記載)を成約の期待もせず送付した。それは過去にバングラデシュとは成約までは到らなかった経験があり、輸出時に要求される書類や支払条件の厳しさなどは承知していたからである。所が先方から届いた支払条件は、半額前送金そして残額L/Cとの提案で驚き喜んで受け入れた。そして1回目の船積を終えた時点で前送金とL/C買い取り金額の合計は商品代金を上回っていた。差額分を送金するからとのメールを打つと次回用に預かってくれとの事であった。
それから2ヵ月後に再び注文が届いた。注文内容は1回目とは若干異なるが供給することに問題は無いのでProforma Invoiceを前回の支払条件で送ると1/3相当額のL/Cが届いた。通常L/Cには色々な条件が書いてある。船積期限、L/Cの有効期限、銀行での買い取り(現金化)時に提出すべき書類そしてその書類上に記載すべき事柄など。銀行にL/Cの買取(現金化)を依頼する時は、それらが指示通り揃い書類の記載内容に一字一句間違いがないとき初めて現金化が可能である。もし銀行に提出した書類にL/Cの内容と違う個所があれば輸入業者(L/C発行人)はその支払いを拒否する事が出来る。弊社で受け取ったL/Cを見ると船積期限が迫っているので差額の送金は届かないがすぐ送るとの事で船積を行なった。その後も残額の請求をするが返事がない。暫くして社長は入院中の為送金は待って欲しいとの事。数か月待つが届かないので大使館に問い合わせをすると所在不明との回答が返って来た。
相手が本当に病気になり仕事を続ける事が出来ず引越しをしたのか、私が相手の術に嵌り騙されたのか真相は不明である。バングラデシュに集金に行く方法も有るが可能性が低く時間と経費の無駄と諦めた。慣れによる原則を忘れた自らの判断の甘さ、相互信頼が及ばない貿易の厳しさを再認識させられた出来事であった。
(貿易ニュース鹿児島2004.5月号掲載)

その19

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その19

弓場秋信氏以前「中国プラスワン」のテーマで、何時でも中国にとって変われるを国を持つべきであると商品群毎に代替国を紹介した。それは近い将来中国商品が中国元(人民元)高により価格が上昇する可能性ありとの考えからであった。しかし近い将来でなく突然その日がやって来た。それも人民元高が原因でなく。
世界の工場として想像以上のスピードで発展している中国と世界の貿易は拡大を続け、それに伴い海上輸送は飛躍的に伸びた。中でも北米航路におけるコンテナ貨物の増大、そして鉄鉱石等の原料需要増からの輸送船の逼迫は海上運賃の高騰を招いている。一方中国製造業の興盛は素材原料の急激な輸入増をもたらし、世界の原料需給バランスを一気に崩した。それは鉄鉱石、綿花、天然ガスなどの国際相場を押し上げ、海上運賃の値上げと相俟って20-40%の価格上昇を招いている。鉄鉱石の価格高騰は、産業界の米と言われる鉄鋼材の原価を押し上げ、鉄を使用した様々な商品価格に影響し、綿花の相場の上昇は綿糸を素材とするあらゆる種類の綿製品に、そして天然ガスはプラスティツク製品価格に波及している。それらが今月(3月)に入り使用原料により差はあるが、中国側から10-40%の値上げ通告となった。
エネルギー、鉄鉱石等の原料輸入依存度の高まりへの不安や、高い経済成長率で台頭し始めたインフレ懸念から、人民元の「切り上げ」は中国経済にとってマイナス面だけではない、との議論が中国国内で起きている。また中国製品の輸出相手国からは人民元の為替相場に対しての不満が募っいて、中国政府高官の発言も従来の現固定相場維持から変動幅の拡大容認へと「切り上げ」への環境が整いつつある。従来の中国商品価格に現在の値上げラッシュそして人民元切り上げがプラスされた時、いまだデフレ経済から抜け出せない日本市場で中国商品の値上げ吸収が輸入業者や流通業者の犠牲なくして可能でしょうか。
今や輸入業者にとっては「中国プラスワン」は一刻を争う死活問題であり代替国との早期交渉が必要である。しかし中国に輸出を試みる業者にとっては、中国市場の購買力の変化も然る事ながら、インフレ、人民元切り上げは、中国と日本の価格差縮小に繋がるので、やっと巡って来た大きなビジネスチャンスである。
(貿易ニュース鹿児島2004.4月号掲載)

その18

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その18

弓場秋信氏1昨年のBSEに続いての鳥インフルエンザの発生は貿易に多大な影響を及ぼしている。そこでこの様な突発的出来事、何の前触れも無く政府による突然の輸入禁止措置が取られる事態に対し、どの様に対処したら良いか考えてみたい。
日本国内での高病原性鳥インフルエンザウイルス発生では、発生元の鳥類は全て処分し周囲30km以内の鳥類、鶏卵の30日間移動禁止処置が取られた。その対象農家に対してはその間の経済的損出への補償が政府・自治体で検討されている。一方政府による輸入禁止措置発動で、鶏肉やその加工品の輸入が不可能になったり輸出国から貨物が積み出され日本に向かっている貨物或いは既に貨物が到着して通関待ちしている等の引掛り貨物への補償を輸入業者に対して政府が検討しているとは聞いていない。
当社では牛骨粉を含む複合肥料を中国から輸入していた。それはシラス土壌の鹿児島では、牛骨は必須肥料原料でその相当数量が中国、インド、パキスタンから輸入されていた。しかしBSE発生の原因が解明されていく中で牛骨の輸入が禁止された。幸いにも当社の牛骨粉を含む複合肥料の輸入は通関後の通達で被害は免れたが、時間と経費を掛け育てた商材は一瞬にして消えた。もちろんこれにめげず、燐酸源として牛骨以外の原料を探し顧客に提案してこそ頼られ必要とされる商社でありそこに新たな商機が生まれてくるのだが。
突然の輸入禁止措置に対処する手段として、輸入信用状(L/C)の条件に付記できないかを考えた。それはその商品が輸入国政府によって輸入禁止措置が発動された時、L/Cは取り消され効力を失う。即ち注文取消しによって発注貨物輸入による色々な損害を回避出来る。しかしながらL/Cには受益者(輸出業者)にとってそのような不利、不安定な条項(条件)は盛り込めない事になっている。またL/Cは通常取り消し不能で(もちろん輸入業者の判断で取り消し可能なL/Cもあるがそれでは輸出業者が納得しない)受益者の同意無くしてはL/Cの内容の変更は不可能である。であれば事前に輸入しようとする商材の考えられる諸々のリスクについての対応策を検討して、その最大リスクが会社にとって大き過ぎる場合は輸入を諦めるか、或いは国内仕入にすべきでは。またそのリスクが輸出者の協力で回避出来ると考えられる部分については輸出者と相談し理解を得た上でそれを契約書に謳う事が必要である。
(貿易ニュース鹿児島2004.3月号掲載)

その17

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その17

弓場秋信氏最近新聞やテレビでFTA(自由貿易協定)が話題になる。そこでFTAは私たちの貿易にどの様な影響が有るのか考えてみたい。
貿易を営む業者にとっては、何らの制限や干渉も無く、あらゆる物を自由に外国と取引できることが理想である。しかし国・地域間では経済発展の歴史・産業構造などが異なり、同一の条件下で国際競争を行うには無理が有る。また日本国内にも産業間に同様な問題が存在し、貿易の完全自由化と言いつつも、輸入制限、関税賦課そして非関税障壁と呼ばれる保護政策が取られているのが現状である。それでは現在の日本の貿易政策でどんなデメリットがあり、FTA(二国間自由貿易協定)が締結されたならばどのようなメリットが考えられるであろうか。
最近の貿易相談で多いのはフイリピン、インドネシアなどASEAN諸国への中古車の輸出であり、輸入においては魚類を始めとする農水産物の日本への輸入である。ところが日本の中古車、或いは中古品の輸出は一部の国を除いて輸入が禁止されている。それは自国経済への影響を考慮しての措置である。しかしその国が全ての国からのそれらの輸入を禁止しているかと言えばそうでもない。例えばインドネシアはマレイシアからの輸入は認めている。また同一の商品でも日本からの輸入とマレイシアからの輸入では、日本からの輸入関税は高くマレイシアからは無税といったケースも有る。それはマレイシアとインドネシア政府間の貿易協定によるものである。
一方日本は農水産物の輸入では、輸入禁止の品目は無くなってきたが、高い関税率、数量枠の設定、輸入者の制限(許可制度)、品質検査(検疫)の独自設定などで一次産業保護の輸入制限を行なっている。最近メキシコとのFTA交渉で話題になった豚肉の関税は、通常は輸入価格の掛け率で計算されるが、豚肉はいくら輸入価格が安くても課税価格が決められ、安く輸入出来ない事で輸入数量が抑えられている。またIQ(輸入割当)商品は、政府の管理下で輸入者と数量が決められ、誰もが自由に好きな数量輸入出来ない様になっている。
FTAの締結は、日本の農水産物の輸入緩和を意味する。即ち関税の低率化、IQ商品の絞込み或いは撤廃。一方輸出においては相手国が日本の製品に課していた規制、関税などが改善され双方の貿易は拡大する。その時を新たなビジネスチャンスと捉え、日本政府と何処の国が交渉に入っているか、そしてどの様な内容が話し合われ合意されるかを注視しつつ、取引可能商品を調査研究することが肝要である。
(貿易ニュース鹿児島2004.2月号掲載)

その16

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その16

弓場秋信氏今月号は何を書こうかと迷っている時に「為替リスクを輸入専業業者はどの様にすれば回避出来るか」とのお尋ねがありましたので、このテーマで筆を進めます。

貿易業を創業して22年、その間の為替を見ると円高の流れであった。1ドル260円が79円迄動き、約3.3倍も円が強くなった。輸入する側から見ると、1個100円の商品を33円で買える様になった事になり、市場売価が下がってきたのでその全てが利益では無いにしても、輸入業者の差益は相当の額に上ったのでは。一方同時期、輸出専業業者は1個100円の商品を33円で輸出する事に成るので、大きな痛手を受け、中には貿易業界から消えざるを得ない企業も出た。輸出入を同時に手がけた企業は円高差益とは無縁で、如何にリスクを回避するかで緊張の連続であったと思われる。私自身は輸出専業でスタートして手痛い打撃を受け、そして輸入を始める事により輸出入のバランスを取り生き延びてきた。
輸入専業者にとって為替リスク回避は非常に簡単である。それは輸入商談時の為替相場を基に原価計算がされたわけだから、商談成立と共に為替予約を銀行に入れる事で、その期間内に起こるかも知れない相場の変動リスクから開放される。しかし問題は人間の心理であり予約したことによる結果である。為替相場が動くことでの差損はいやだけど、運(偶然)が味方した時の差益体験(円高による利益)はなかなか頭から消えない。勝負事でも頭の片隅にある残像は勝利の興奮であり、負けても次は再び美酒をと挑戦したくなる。為替を予約するという事は、予約期間内の差損は回避されるが差益は得られない。予約の結果が逆に振れた時、即ちさらに円高に動くと予約しなければ利益がいくらあったと後悔し、場合によっては犯人探しが始まり社内に犠牲者を出すこともある。為替予約によって原価は既に決まり、初期の利益は確保されたはずなのに。
為替リスクの回避は前述の様に簡単である。それを実行するにあたり、リスクとは円安になる危険を回避する事であり、予約をした事が最善の選択であったと認識する事である。もし為替差益も得たいと思うのであれば、何もせず運を天に任せるのも一考である。
(貿易ニュース鹿児島2004.1月号掲載)

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