会員者情報
企業名 | 田苑酒造株式会社 |
---|---|
所在地 | 薩摩川内市樋脇町塔之原11356番地1 |
電話 | 0996-38-2092 |
名前 | 取締役広報流通部長 上山 茂 氏 |
インタビュー(貿易ニュース鹿児島2007,5月号掲載)
薩摩川内市樋脇町に今年1月の大連・香港の海外商談会にご参加いただいた田苑酒造の上山取締役を訪ねた。
社名のとおり、会社は小高い山を背にしたのどかな田園風景の中にある。
田苑酒造と言えば,酒蔵コンサートで有名だ。1992年に始まったこのコンサートも今年4月のコンサートで30回目を迎えた。(コンサートは春と秋の2回開かれる。)
コンサート会場を見せてもらった。焼酎資料館(酒蔵)の中である。ここに330人ほどの来場者を集めて、コンサートが開かれるという。コンサート会場としては決して広くはない。逆に狭いところが思わぬ良さを引き出しているようだ。最前列の人は、独特の雰囲気をもつ古い酒蔵の中で音楽家の細かい動作、息づかいまでを感じることができ、大ホールでは味わえない臨場感と生の音楽に深く感動するという。
田苑コンサートは社員が企画・運営を行ってきた手作りコンサートである。当日は、ホームメイドのお菓子や、ふかしイモ、もろみ酢、焼酎、ソフトドリンクなどが振る舞われる。このようなアットホームな運営・おもてなしが好評で、毎回チケットは前売券の段階で完売し、当日券はないという。
出演者は主に県内の若手アーティストが中心で、彼らにとってもよき発表の場,活躍の場になっている。噂を聞きつけて、東京から山本直純の息子さんなど有名な人が出演したいと連絡してきたこともあったとか。
このような社員総出による地域文化の発掘や若手演奏家の育成といった取組みが評価されて、2005年には芸術文化の振興に貢献した企業に贈られる「メセナアワード 2005 地域文化賞」を受賞した。
さて、本題の焼酎である。
田苑酒造(当時は塚田酒造場)の創業は明治23年。昭和54年に現在の田苑酒造(株)に組織変更している。
主力商品は、主に県外向けの「麦焼酎”田苑”」、県内向けの「芋焼酎”田苑”」である。麦焼酎の中でも、ホワイトオークの樽で寝かせた「田苑金ラベル・田苑ゴールド」は県外で高い人気を得ているという。
今でこそ、貯蔵焼酎は珍しくないが,同社では設立当初から貯蔵焼酎を主力商品として生産してきた。長期貯蔵酒は3年以上貯蔵するため、急な増産が望めないうえに生産・在庫調整も難しい。リスクも伴うが同社ではあえてこの路線を貫いてきた。最近では「貯蔵の田苑」という評価を得て、ここ10年間の売り上げは3倍にまで拡大している。
先のコンサートとも関連するが、この会社を有名にしているものに音楽熟成がある。最初は「酒蔵にBGMを」の若手職員の発案により始めたものだが、発酵が早い、品質も向上していることが判明。今では仕込み中の焼酎にクラシック音楽を聴かせることで醸成を促す「音楽振動熟成システム」を導入し、本格的にクラシック音楽熟成に取り組んでいる。清酒、ワイン造りではこの音楽熟成を導入している企業もあるが、焼酎の分野では初めてである。
田苑酒造の新しい商品にもろみ酢がある。正式名は「さつまいも天然クエン酸飲料 もろみ酢」である。焼酎の製造過程で生まれる焼酎粕はこれまで多くが海洋投棄されていたが、投棄禁止の話がでると、同社ではプロジェクトチームを作って有効利用の道を研究してきた。
いくつかの選択肢の中から飲料として商品化する道を探った。鹿児島大学農学部などの協力を得ながら、試行錯誤を重ねもろみ酢の商品化に成功している。試飲させてもらった。酢特有の鼻をつく酸っぱさもなく、喉ごしもいい。権威のあるモンド・セレクション金賞を始め多くの賞を受賞しているのも頷ける。
田苑酒造では近年、海外との貿易にも力を入れ始めている。これまでシンガポールやタイ、マレーシア、アメリカとの取引実績はあったが、取引額はそれほど多くはない。先般参加した中国商談会は上海や香港との商談がまとまりそうだという。この他にも商談・引合いの話はあるが、海外との貿易は、あまり広げずにじっくりと取り組みたいと考えている。同社の経営理念、「適性規模を維持した上での、健全な企業成長」に沿った考えなのだろう。貿易の分野もじっくり熟成することを期待したい。